大広間は開け放たれて、下働きの娘達が、はしゃいでぱたぱたと駆けている。兄役、父役達は料理に舌鼓を打ちながら、酒を酌み交わし、一年の労を互いにねぎらい合っていた。

 上座には、湯婆々、銭婆姉妹が陣取り、他愛ない話に花を咲かせる。ワイングラスに注がれた色は、それぞれに赤と白。同じドレスに、同じ顔で、手に持ったグラスの色だけが異なっている。二人を見分けることができるのは油屋でも数人しかいない。

 千里は、久しぶりに父母と共にくつろいでいた。すぐ近くにはヒコの姿もある。何故だか、若と、そしてカオナシの姿が見あたらなかった。絶えず若を視界に入れるのがクセになってしまった千里は先ほどから周囲をきょろきょろと見回し、そうした千里の行動に、いちいち反応するハクを、笑いながら千尋がからかい半分にいさめていた。

 次々と運ばれてくる料理に、酒。何気に新メニューの実験も兼ねていたりするその宴は時にとんでもない料理が混ざっているのだが…。

「どうぞ」

 にっこりと、微笑んで椀によそった鍋物を手渡そうとするミズキに、千里はほんの少し驚いていた。

 千里も若もミズキとは、なるたけお互いを避けるようにしてきただけに。

 まっすぐ千里にむけられたミズキの瞳は、本当に美しくて、素直に千里は憧れた。もちろん、恋敵、という事を忘れたわけでは決してなかったのだが。

 そうした、千里の、ミズキに対するどこか好意にも似た感情が、ミズキの微笑みの奥の気持ちを見抜く邪魔をした。

「ありがとうございます」

 うれしそうに微笑むと、千里はミズキの手渡した椀を受け取った。暖かい、湯気の立ち上るそれは、本当に美味しそうだった。

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