D×D前夜(3)

「ヒコ様ぁ…若様は…行ってしまわれたんですね…」

 空になったホームで、少女は脱力して座りこんでしまった。

「ミズキ…そなた…本当にあれを好いておるのじゃな」

 隻腕のヒコは唯一の右手を腰にあて、関心するとも、あきれるともつかない表情で少女を見、溜息をついた。

「…参考までに聞きたいのじゃが、どこがいいのだ?あやつの」

 白い肌に黒く長い髪、薄い藤色の着物のよく似合う少女…ミズキが、瞳に涙を溜めながら、キッとヒコを見つめ、すっきりきっぱり言い放つ。

「すべて…です」

 頬を赤らめると、うっとりと、夢見るように、自分の妄想の世界へ少女は思いをはせる。

「…どうやら聞くだけ野暮だったようだな」

 あきれてあさっての方を見ながら、ヒコは戻ろうと踵を返した。すがりつくように、少女…ミズキがしがみついた。

「ヒコ様、教えて下さい…、油屋への行き方を」

「…何?!」

 


 

「は…っクション!!!」

 海原電鉄、油屋へ戻る列車の中で、若は大きなくしゃみをした。

(…嫌な予感がする)

 備前屋での日々は坊…若に自信をつけさせた。今度こそ、剣に手をかけ、若はしばし、当面の問題、ハクへ挑む事のみ考えることにした。既に祝言を上げているハクとセン。横恋慕とか、そういった事でなく、自分の中のけじめとして…。

 まったく、思う相手には思われず、とかく、恋心というのはままならないものだとか…、あとは次回の物語、舞台は油屋、乙女が二人に若者一人。はてさて、どうなりますことやら…。

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