いかつい体、がっしりした体躯、屈強なその身に、六本の腕を持った、並びなき稀代の薬師は、その肩を抱きたい衝動にかられながらも、彼女の気持ちを思いやってか、ひっそりと見守る事しか術がなかった。
それは、ただ、ずっと見つめているだけの恋だったので。
姉が、焦がれた男は、妹の夫になるべき男だったので。
永遠の片恋は、過ぎる日々にいつしか色あせ、澱のように、静かに静かに、心に降り積もっていった。
姉と、六本腕の心の奥底に。
届かない、永遠の…。
釜爺は、思わず我が目を疑った。燃え盛る炎を背景に、魔術をふるう、その女の姿に。
「銭婆…、お前…」
寸法の合わないドレスを片手で支え、乱れた髪はすすけていたが、やはり彼女は美しかった。
「何ボヤボヤしてんだい!このまんまじゃ母屋に燃えうつっちまうよ!シャンとおし!」
「相変わらず、コエえ女だな」
そう言って、男が笑う。
龍に転じたハクが雷雲を呼び、ヒコが三叉戟を振るうと、凍りついた海面が裂け、海水が巻き上がり、水竜巻が起こる。一転、にわかに掻き曇った空から、降ってくる海水、そして雨。
降りしきる雨に、濡れそぼった二人の男と女は、鎮火した薬草園の前で、黙って視線を交わしていた。
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