今日は3月3日…春の気配が静かに忍び寄るうららかな日。
千尋は朝から落ち着かない…。
窓の外には…桃の花。
暖かな午後の静かな陽だまりの縁側で…
和室の部屋に飾られた雛人形を見つめながら…。
いつの頃からか…千尋はハクと言う名前の男の子の夢を見る。
その子は夜毎の夢の中で…千尋にいつもこう言うのだ。
『…千尋、3月3日の雛祭りの日には…そなたに逢いに行けるだろう…』
…と
そして、それを聞いて…やはり千尋も何故か答えるのだ――…。
『嬉しい!ハク、きっとだよ…!』
そんな夢をいつも何故か見て来た千尋にとって…
今日は何ものにも変えがたい程…大切な日。
…ハク…逢いたくて堪らない人、もう一度…
夜毎見る夢の中で…千尋はそれをいつからか自覚した。
綺麗に飾られた雛人形の微笑みの優しさが…
…千尋の幼い無垢な心を熱くする――…。
いつの間にか待ちくたびれて…雛人形の傍で眠る小さき命。
黄金色に煌めく光が…その眠る白き頬に…そっと口付ける…。
きらきらと…静かにその音を響かせながら…。
…それは…ハクと言う名の光だったかもしれない…
…それは…ハクと言う名の光の訪れであったかもしれない…
待ちくたびれて、無心に眠る千尋の肩を強く抱きしめて…決して離さない。
夢の中で千尋は…囁く。
『…ハク…やっと逢えたね…!』
了
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