とりどりに、色々の緑。もちろん、若も、備前屋でカズラギの手ほどきをうけてはいたが、これだけ膨大な量の薬草を一つ一つ判別するのは至難の業だった。
「…なあ、釜爺」
「何だ?」
剪定していた手が止まる。
「歳を自由にするクスリ…なんて、ないよな」
「ああ、夢の実のことか」
「あるのか?」
若が釜爺に詰め寄った。釜爺はこともなげに言う。
「カズラギから聞かなかったか?赤い実で10歳若返り、青い実で10歳年をとる。じゃが、若、何でそんなモンを欲しがる?」
嫌な沈黙が流れる。背も高く、りりしい若者風な男が、欲するのは夢の実、歳を操る不思議な果実。歳をとりたいのか、とらせたいのか、はたまた、自分自身が若返りたいのか。
「…なあ、釜爺」
「何だ?」
「男は若いにこしたことはないよな」
唐突な若の物言いに、釜爺はあやうく剪定挟みを取り落とすところだった。
「ナンだってお前さんの口からそんなコトが…」
剪定の手を止めて釜爺が言った。が、若は唇を噛んで、昔とかわらないきかん気な顔をする。
「…千里が年頃になる頃、俺はもうおじさんだから」
若者の若者らしからぬ悩みに、釜爺は絶句した。