行き倒れの少女をかかえ、途方にくれている妻と娘を一番初めに見つけたのは、白い竜だった。三人を背に乗せ、途中で合流した黒い鷲と共に湯屋に戻ると、あちこちに擦り傷をこしらえて、あてどなく流離ってきたであろう坊に出くわした。
意識を失って、白い顔はいっそう蒼白に、唇も既に色を失いかけている。ヒコに抱かれた少女を見て、若が唇を噛んだ。
「どうして…こんなっ…!」
それは、口惜しいとも、歯がゆいともとれる顔だった。
「若、今はともかくミズキの体温を戻すのが先だ」
そう言うヒコの言葉に、若はミズキを抱き上げると、先頭に立って進んでいく。突然の美少女の来訪、そして、それを抱きかかえる若に、湯屋の者は騒然とした。
ハクが一室客間を手配し、千尋と千里があわてて湯の入ったたらいを持ってやってきた。千尋が濡れた着物を脱がせ、体を拭き、布団に寝かせてやったが、体温は今だ戻らない。
黙って千尋が自分の上着に手をかけ、脱ごうとしたのをあわててハクが止めようとする。
「ちっ…千尋っ!?」
「ハク…こういう時は人肌で温めるのが一番いいっていうから」
「いや、それはかまわないが、せめて人払いをさせてくれ」
と、ハクが言うやいなや、直垂の襟に腕をかけ、自分の上半身もろ肌脱ぎをしたのは若だった。
「…いい、セン、俺がやる、…俺の責任だ」
千里が驚いて若の方を見た、…が、若は視線を合わせなかった。
「すまない、皆、出ていってもらえるか」
いつにない真剣な若の面差しに、ハクと千尋、ヒコは黙って部屋を出ようとした、千里が、何か言いたそうに若を見たが、千尋に促されて部屋を出て行った。
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