燃え盛る炎、龍が舞い、氷原は裂け、水竜巻が巻き起こる。油屋の湯女達も、蛙男達も、だれもが薬草園の価値を知っていた。
 ススにまみれ、汗にまみれ、消火にあたる。呆然とするしか術の無い湯婆々。妹に代わり、持てる魔術の限りを尽くして事にあたる銭婆。

 釜爺一人が呆然としている。

 年の暮れ、夜空を焦がした炎は、龍の呼んだ雨雲と、吹き上げられた海の水により、消えていった。くすぶった煙が立ち昇り、薬草園は綺麗に燃え尽きてしまった。

 何株かは、リン、カオナシ(と、一応坊)の尽力により、持ち出されはしたが、事の縁源たる夢の実を実らせる木は、炎によって土に帰った。

 本来であれば、静かに暮れていくべき年の瀬に、油屋の者達は皆疲弊しきっていた。

 あちこちに焼け焦げをつくり、力尽きて横たわるカオナシに寄りかかるリンは肩で息をし、小さなネズミもまた、リンの案内に奔走し、尻尾に焼け焦げをつくっていた。

 意識を取り戻したミズキは、耐えがたい良心の呵責にさいなまれていた。目の前で繰り広げられる事実に、ようやく事の重大さを理解したのだ。

 何より、夢の実はすべて使いきってしまった。もう、術は、無い。

「私…、わたし…」

 ただ泣けばいい、という計算ではないことは、震える肩と、力なく折れる膝でわかる。

「どうしたら…」

「ちう?」

 首をかしげて、坊ネズミがたかたかとリンの肩から降りる。

「もう、戻らない、何もかも、私のせいで…、私がっ」

 ミズキがうずくまった、刹那。

「ちゅーーーーーーーっ!」

 ネズミになった坊が、突然苦しみ出した。うずくまり、のどをかきむしると、それは今度は巨大な赤子の姿に戻り…そして、ゆっくりと細胞が変質していく。

 日に焼けた肌、ひきしまった筋肉、そこには、元の若の姿があった。

「若…様?」

 瞳に涙をためたまま、ミズキは若を見つめ、そして、

「おい!いいから何か着てくれよ」

 と、リンがぼやいた。

「ええっ?」

 ミズキが叫ぶ。だって、夢の実のエキスは確かに…。

「ミズキ、お前…まさか、知らなかったのか?夢の実の効き目は永続的なものではない。一定時間がたてば、元に戻る」

 煤けた髪の向こう側の瞳が、哀れむようにミズキを見た。

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