「きゃああああっ!」

 宴の間に、なめくじ女の黄色い悲鳴が響いた。

 畳の上で、びちびちと黒い生き物がのたうっている。…それはオタマジャクシまで戻ってしまった青蛙の姿だった。

「何やってんだい!」

 と、騒ぎの中心にやってきた湯婆々の顔に、みるみるうちに更に深い皺が刻まれていく。老衰ギリギリ、骨と皮のみでふがふがと口を動かしてはいるが、言葉にならない。

「ひぇぇぇぇ!」

 反して、銭婆の姿は逆に若返っていく。と、容貌のすっかり変わってしまった姉に驚いて湯婆々が腰を抜かした。

「いけない!早く!水桶もっておいで!青蛙が死んじまう!」

 ウエストが緩く、逆に着丈の足りなくなってしまったドレスを手で押さえて、結い上げられた栗毛の長い髪は、髪留めが落ちてしまい、額にかかるさらさらとした髪をかきあげながら銭婆が叫ぶ。

 多くの者は何事もなかったが、何名か。容貌が次々と変わっていく。

 ある者は若返り、ある者は年老いて、さかのぼる年数が短いせいで、その変化に気づいていない者もいたかもしれない。固体差はてんでんばらばらに、宴は混乱の坩堝の様相を呈していた。

 騒ぎの収集に、ハクと千尋は立ち上がり、湯婆々の元へ行ってしまった。残された千里はミズキと向き合い、手渡された椀を持ったまま、周囲の変事に首をかしげていた。…が。

「どうしたの?食べないの?」

 周囲の状況がわかっていないのか、にっこり笑ってミズキが千里に椀を勧める。

「えっと、でも…」

 ミズキの表情は、確かに笑顔に見えるのに、人形のように、冷ややかで、作り物めいて見えた。

「食べなさいよ」

 座していたミズキが立ち上がり、千里に掴みかかろうとした、その時。

「待て!千里、食べるな!」

 恐らくは走って来たのだろう、若が宴の間にずかずかと踏み込んで来る。リン、カオナシがそれに続き、しんがりに長身のいかつい青年。ミズキの策にまきこまれてしまった釜爺の姿があった。

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