愛って何だろう。
鬼になってしまったあの女性。
カオナシになってしまったヌシさん。
誰かに気持ちを向けすぎると、自分のバランスが保てなくなるんだろうか。
それはどんな気分なんだろう。
怖いような気が…少し、する。
でも、自分の心の内にある、暖かい気持ち。
そばにいたい。
声を聞きたい。
抱きしめられて、ドキドキする。
恋って何だろう。
ささいな事に一喜一憂。
ころころと表情の変わる少女を、
いとおしいと思う。
触れたいと…思った。
帰ってきた、拒絶の言葉。
胸が、しめつけられる、せつない気持ち。
そばにいたい。
声を聞きたい。
抱きしめたくて、ドキドキする。
「え?列車って、行ったきりじゃないんですか?」
カズラギの部屋で、千尋と坊、湯婆々がお茶を飲んでいる。ヒコは次の間で横になり、引き戸を開いて話に加わっていた。
「釜爺が、言ったのか。」
ずずっ、と音をたてて、カズラギが茶をすすった。
「おかしいとは思わんか?行ったきり戻って来ない電車がどこに行くのか。」
「や…でも。」
だって、ここは不思議な場所だし…と千尋は思ったが、声に出しては言わなかった。
「環状線なんだよ。海原電鉄は。」
「かんじょうせん…。」
千尋は山の手線を思い出していた。
「ねえ、それってどういうこと?」
椅子に座って足をぶらぶらさせながら坊が尋ねる。
「ここから、海原電鉄で帰れるってことさ。」
おかわりのお茶を注ぎながら湯婆々が言う。
「そうなの?」
坊がカズラギを見て聞いた。
「そうだな…ただ、問題は。」
そう、パスは3枚。千尋、坊、ハク、…そして、湯婆々。1枚足りないのだ。
「今は体があるからねえ。鳥になってあたし一人で戻ってもいいんだけど、まだちょっとこの体に慣れてなくてね。術の制御に自信が…ないねえ。」
もうしわけなさそうに湯婆々がつぶやいた。
「…そうなると、やっぱりハクに一人で帰ってもらうしかないのかな?」
坊の言葉に一同が沈黙する。
「やっぱりそれしかないのかねえ。」
溜息をつきながら湯婆々が言った。
『あの時』以来、千尋はハクの部屋に行っていない。気まずさが何よりも先立って、顔を合わせる事ができないのだ。ハクの事を、嫌いなはずは無い、ただ、触れられた時、反射的にあのヒヒ神を思い出してしまったのだ。比較するとか、そういう事ではなくて、体が萎縮してしまった。ひどい事を言ってしまった。…嫌じゃ、なかったのに。
「…セン?」
黙ったきり、顔色を青くしたり赤くしたりする千尋にヒコが声をかける。
「ううん!何でもない。」
顔を上げ、答えたが、すぐに千尋は深い溜息をついた。
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