いつか不思議の町で(2)

 ハクは、ふとんから体を起こし、窓から外を惚けたように見つめていた。
嫌われているとは思っていなかった。心が通じていると思っていた。ずっと待って、待ち続けたのだ。少女が大人になるその日を。

 あの時。何故、口にしてしまったんだろう。

 千尋は、美しかった。竜身で見つめ、魂で触れ合い、確信した。誰にも渡したくないと。

 だが…、もうひとつの目的。新たな力の源は、結局見つける事ができなかった。このまま、ここに、この身を置かなければ、千尋と共に元の世界に戻ったら、千尋の命が縮まる。それは、できない。

 …では、どうしたら。

 不穏当な考えが、脳裏をよぎる。

 こちらの世界で、共に、このまま…。

 焦る気持ちが、せきたてる。

「嫌ッ…!」

 千尋の声が耳に響く。

 願ったことは、共にあること。それなのに。

 腕に残った感触。やわらかな肌。いきいきとはねる髪。

 押し寄せる、自責の念。

「…くッ!」

 こぶしで、畳を叩く。

 胸が、しめつけられる。あの、赤い竜もまた、このような思いにさいなまれたのだろうか。

「千尋…。」

 声に出してつぶやいた時、ふすまが、開いた。

 やましいことはないのだが、あわててハクはふとんにもぐりこむ。

 そして、そのまま目を閉じ、眠ったふりをした。

「…ハク?眠ってるの?」

 千尋の声だった。顔を合わせにくいのはハクも同様で、そのまま眠ったフリをする。

「お願いが…あったんだけど。」

 が、その言葉に飛び起きた。

 ビクッと身を震わせ、千尋がたじろぐ。

「あ…。お、起きてたの?」

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