ハクは、ふとんから体を起こし、窓から外を惚けたように見つめていた。
嫌われているとは思っていなかった。心が通じていると思っていた。ずっと待って、待ち続けたのだ。少女が大人になるその日を。
あの時。何故、口にしてしまったんだろう。
千尋は、美しかった。竜身で見つめ、魂で触れ合い、確信した。誰にも渡したくないと。
だが…、もうひとつの目的。新たな力の源は、結局見つける事ができなかった。このまま、ここに、この身を置かなければ、千尋と共に元の世界に戻ったら、千尋の命が縮まる。それは、できない。
…では、どうしたら。
不穏当な考えが、脳裏をよぎる。
こちらの世界で、共に、このまま…。
焦る気持ちが、せきたてる。
「嫌ッ…!」
千尋の声が耳に響く。
願ったことは、共にあること。それなのに。
腕に残った感触。やわらかな肌。いきいきとはねる髪。
押し寄せる、自責の念。
「…くッ!」
こぶしで、畳を叩く。
胸が、しめつけられる。あの、赤い竜もまた、このような思いにさいなまれたのだろうか。
「千尋…。」
声に出してつぶやいた時、ふすまが、開いた。
やましいことはないのだが、あわててハクはふとんにもぐりこむ。
そして、そのまま目を閉じ、眠ったふりをした。
「…ハク?眠ってるの?」
千尋の声だった。顔を合わせにくいのはハクも同様で、そのまま眠ったフリをする。
「お願いが…あったんだけど。」
が、その言葉に飛び起きた。
ビクッと身を震わせ、千尋がたじろぐ。
「あ…。お、起きてたの?」
壁紙提供:CoolMoon様