ミナモト〜いつか帰る場所〜(3)

「闇が…ひいていく。」

 ハクの腕の中で、千尋は泣きじゃくりながら顔をあげた。

 カオナシを中心に、竜巻が起こった。闇がうねり、空に舞う。ハクが千尋を支え、傷ついたヒコを坊がかろうじて押さえた。天に帰っていく闇を追随するように、いく筋もの光が天に向かって昇っていくのが、見えた。

 風が、凪いだ。

 高麗縁の畳の上に、倒れている人影を見つけ、千尋とハクが駆け寄る。

 そこには、いつもの湯婆々の姿と、傷つき倒れた赤い竜の姿があった。

「おばあちゃん!」

 千尋が駆け寄り、湯婆々を起こす。

「おばあちゃん!!おばあちゃん!」

 ぼろぼろと涙がこぼれ、湯婆々の顔に落ちる。

「ん…、なんだい、冷たいよ。やめとくれ。」

 目を閉じたまま、湯婆々が毒づいた。

「こちらも、まだ息がある。」

 竜を診てハクが言う。

 ヒコを支えながら、坊とカズラギもやって来る。

「婆婆〜!!」

 本当なら、すぐにでも駆け寄って抱きつきたい、と思ったであろう坊も、ヒコを支えるゆえか、ゆっくりとやってくる。だが、さすがに、涙を止めることはできないようだ。

 ゆっくりと、ヒコを座らせると、坊が湯婆々に飛びついた。

「婆婆だ、いつもの婆婆だ!」

 若がえった姿にとまどっていたのか、いつもの姿に安堵して、坊が抱きつく。

「坊…。」

 湯婆々も、しっかりと坊を抱きしめていた。

「どうして…おばあちゃん、元の姿に?」

 千尋がカズラギに尋ねた。

「恐らくは、カオナシの負のエネルギーを昇華するために、使いきっちまったんだろう。これまで、蓄積していたモンを…な。なんでえ、すっかりしわくちゃになっちまったなあ。湯婆々よ。」

 皮肉っぽく、だが、微笑んでカズラギが言う。

「はっ!いい女ってのはね、いくつになったってイイオンナなのさ。見た目なんざ。どうでも…。」

 と言いかけて、続けた。

「まあ、若いにこしたこたあないけどね。…あいかわらずだね、アンタも。」

 旧知の間柄を確認するように笑い合う。

 赤い竜が、ゆっくりと、人の姿をとる。
 支えるハクに驚いて、ヌシが尋ねた。

「…そなた、何故。」

「無事なら、それでいい。約束…したから。」

 そう言って千尋の方を見た。

「…そうか。」

 薄く、ヌシは微笑んだ。

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